私が生まれ育った土地で、小さな住宅の設計を手がけることになりました。クライアントは、特に家を持ちたいと考えたことはなかったそうです。しかし40代を前にして、自身の家族との生活を確立していくなかで、大きくなくていい、自分たちにとって必要最小限の家を建てたい、そう思うようになり、私に依頼がありました。狭い土地に小さな2階建ての家をイメージしていた矢先、100坪弱の土地の購入の知らせが届きました。それを聞いて導かれるようにとても自然と、平屋の家が思い浮かびました。
敷地はかつての城下町、短冊状に町割りされた場所にあります。周囲には新しい住宅が建ち並んではいますが、ところどころに昔ながらの杉板張り、瓦屋根の雰囲気のある古い民家が見られます。
その風景に溶け込むように、ごくありふれた素材を用い、羽目板張りの外壁にいぶし銀の板金屋根をかけたシンプルな外観にしたい、そう思いました。
外壁は、月日を重ねるごとに経年変化で落ち着きのある色あいとなり、屋根は、四季を通じて住まい手をやわらかく包み込む大きなものです。
幅員2.4mの前面道路からの開放性を保ちながら、奥行きのある路地のようなアプローチが、外部との適度な合間をつくります。
屋根のある外部空間は、カーポートとして、また雨の日にも子どもの遊び場として活用できます。内部は、ずらした平面形状がワンルームをゆるやかに仕切り、姿は見えずとも家族の表情をうかがえる、ほどよい距離感を意識したプランとしました。キッチンからリビング、連続するデッキテラスの床や天井、さらには庭までを見通せる視覚的な奥行きをつくったことで、より広がりが感じられます。深い軒は夏の強い日差しを遮り、冬のあたたかい日差しを室内に呼び込みます。いまでもカーテンのない生活をしていることが、なによりその快適さを物語っています。